コンクリート3Dプリンティング
西脇 智哉
近年、3Dプリンター技術がさまざまな分野で注目されています。建築の分野でも、コンクリートを使った3Dプリンティング技術(以下、3DCP)は、従来の建築工事の方法を根本的に変える可能性がある新しい技術として関心を集めています。日本の建設業界では、働く人の減少や高齢化、働き方改革に伴う長時間労働の解消、さらには異常気象による労働災害の増加といった課題が多くあり、工事の効率化と人手の削減が急務となっています。3DCPはこうした課題解決に役立つと期待されていますが、日本のような地震の多い国では、通常の鉄筋コンクリートのように補強材を使うことが難しいため、その実用化には課題があります。
3DCPにはいくつかの技術があり、建築分野では、セメント系の材料をデジタル制御されたノズルから押し出して積み重ねていく方式が主に研究されています。しかし、この方法では、従来の鉄筋コンクリートのように、型枠内にあらかじめ鉄筋を配置することができないため、構造的な補強を行うこと簡単ではありません。このことも理由の一つとして、日本では3DCPを使った実際の建設事例がまだ少ないのが現状です。
補強材を導入する方法については、さまざまな取り組みが進められています。例えば、3DCPで作った積層物を型枠として使い、後から鉄筋を配置してコンクリートを流し込む方法があります。しかし、この方法では型枠工事のみが3DCPに置き換わるため、省人化や効率化のメリットが十分に活かされていません。加えて、従来通りの長い鉄筋(多くは直線)を配置するため自由な形状が損なわれる可能性があります。やそのため、さらに革新的な工法の開発が必要です。
筆者の研究グループでは、3DCPの積層物そのものに補強材を導入する方法を提案しています。その一つが、3Dプリンターのノズル部分に補強材を自動的に挿入する機構を組み込む方法です。このシステムを使うことで、積層作業と補強作業を一体化し、自動化することを目指しており、小規模な試験体は既に得ることができています。曲げ試験の結果では、ひび割れが発生した後も脆い破壊を避け、構造の強度を高められることが確認されました。ただし、この補強方法がすぐに実際の建築に使えるわけではなく、さらなる研究と改良が必要です。
国際的には、アメリカやヨーロッパを中心に3DCPに関する基準作りが進んでいます。日本国内でも同様の動きがありますが、建築分野の厳しい基準を満たすためには、まだ課題が多いと感じています。今後も国際的な動きを視野に入れながら、日本の特徴を活かした技術を発信していくことが重要だと考えています。
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